徹底解説:日本のAI市場動向の現状と今後の成長予測は?

この記事で分かること
  • こんな読者におススメ:AI市場の市場調査、事業計画に関する情報収集や資料作成をしている人
  • 日本のAI市場の市場規模と今後の成長予測
  • 2030年にかけて成長するAI市場のセクター
  • 日本企業によるAI導入の状況
  • AI市場の主要な企業プレーヤー
  • AI市場の課題と今後の動向

AI市場の市場規模:拡大するAI導入のニーズ

日本でAI関連技術が注目されたのは2016年頃でしたが、2018年以降は具体的な企業の業務や事業に関わる課題解決のソリューションとして、大手企業のみならず中小企業の間で本格的なAIの導入や活用を検討する企業が増加しています。

更に2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、リモートワークの普及、業務のデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が一挙に進みました。AIへの投資を積極的に検討する企業も増えており、今後もAI市場はコロナショックを契機により一層成長が加速すると考えられます。

AIに関する技術は非常に広範囲にわたっているため、AI市場の市場規模の予測は調査会社によって大きく異なっています。ここでは代表的な調査会社のAI市場のレポートを整理しました。

富士キメラ総研:2025年度予測でAI市場は1.9兆円まで拡大

マーケット調査会社である富士キメラ総研が2020年10月に発表した「人工知能ビジネス総調査」によれば、日本のAI市場規模は2020年度に1兆1,084億円を見込んでおり、2025年度予測では1兆9,357億円まで成長すると予測されています。

特に注目されるAI活用ソリューション市場として、次の4つが挙げられています。

AI活用ソリューション市場①:OCR

「OCR(Optical Character Recognition)」とは、紙媒体に記載されている文字を読み取り、テキストデータに変換する技術のことです。

OCRソリューション市場規模は2020年度見込みの160億円から2025年予測の303億円まで成長すると予測されています。

AI活用ソリューション市場②:チャットボット

「チャットボット(chatbot)」とは、「チャット(chat)」と「ボット(bot)」を組み合わせた言葉で、AI(人工知能)を活用した「自動会話プログラム」のこと。これまで顧客の問い合わせや質問対応は、スタッフがメールか電話で対応するか、または「よくある質問集」といったページ作成での対応が主流でした。今後はチャットボットの登場により、AIによる自動対応が普及し、業務効率化が大幅に進むと考えられています。

チャットボットソリューション市場規模は2020年度見込みの188億円から2025年予測の368億円まで成長すると予測されています。

AI活用ソリューション市場③:需要予測

「需要予測」とは、AIの技術を活用し、自社が製造又は提供する商品やサービスの需要を予測することです。商品に関する情報、受注の過去実績、気象情報、カレンダー情報などを活用し、商品の需要を予測することがAIによって可能となりつつあります。

需要予測ソリューション市場規模は2020年度見込みの203億円から2025年予測の304億円まで成長すると予測されています。

AI活用ソリューション市場④:パーソナライズドレコメンド

「パーソナライズドレコメンド」とは、性別や年代といった属性に関する情報のみならず、ユーザーの過去の購買や閲覧といった行動の履歴に基づいて商品やサービス、コンテンツをユーザーにお勧めすることです。近年ではAI技術の進歩により、ECサイトのみならず、転職サイトや動画サイト、不動産サイトといった多くの領域のサイトでも活用が普及しています パーソナライズドレコメンドソリューション市場規模は2020年度見込みの102億円から2025年予測の180億円まで成長すると予測されています。

ITR:AI主要8市場は2024年に約1,000億円まで拡大

次に、独立系ITコンサルティング・調査会社のITRは2020年11月にAI関連の主要8市場に関する市場規模の推移と予測を発表しました。2020年度のAI主要8市場の市場規模は500億円を突破し、2024年度には1000億円まで成長を遂げると予測されています。

ITRはAIの主要8市場として、「画像認識」、「音声認識」、「音声合成」、「テキスト・マイニング/ナレッジ活用」、「翻訳」、「検索・探索」、「時系列データ分析」、「機械学習自動化プラットフォーム」といった8つの市場区分を設けています。直近2019年において、これらの中で最も成長率が高い市場は機械学習自動化プラットフォーム市場と指摘しています。AI市場の発展とともにデータサイエンティスト人材への需要が高まる一方で、データサイエンティスト人材の不足を補えるサービスとして、大企業による認知が高まり、多くの企業で導入が進んだと考えられています。

次に高い成長率を示した市場が画像認識市場でした。現状では工場での部品や製品の検査や橋や道路といった交通インフラや建物の保守点検での用途が主流です。今後はAI技術の発展により、今後は自動車の指導運転関連等、用途が多様化することで更に市場の成長が進むと考えられています。

EY総合研究所:運輸、卸売・小売、製造におけるAI市場が急成長

また、EY総合研究所が2015年に公表した「人工知能が経営にもたらす創造と破壊」によれば、日本国内のAI市場の市場規模は2020年に23兆638億円、2030年に86兆9,600億円まで拡大すると試算しています。EYは産業別にAI市場の規模を試算しており、2020年においてAI市場で最も高いシェアを占めている産業は、卸売・小売分野(4兆6,844億円)、運輸分野(4兆6,075億円)製造分野(約2兆9,658億円)と予測しています。

2030年の予測値では運輸部門(30兆4,897億円)、卸売・小売分野(15兆1,733億円)、製造分野(12兆1,752億円)となっており、運輸分野、卸売・小売分野のAI市場が特に発展すると分析しています。将来的に運輸、卸売・小売はAI技術の発展の恩恵を最も多く受ける産業の1つになると考えられます。

日本企業のAI導入状況

 次に日本企業によるAI導入状況を見ていきたいと思います。公益社団法人日本経済研究センターは2019年3月に開催された第5回AI経済検討会にて、日本企業のAI及びIoTの導入の現状に関する調査報告書を公表しています。この調査では、総務省「通信利用動向調査」(2017年)と総務省・情報通信総合研究所・日本経済研究センター「AI・IoTの取組みに関する調査」による雇用者、東証1部上場企業及び有力未上場企業へのアンケート調査が基になっています。これによれば、AIを導入する企業は全体の15%程度で、既にAIを導入する企業は中堅・中小企業に多い傾向があります。AI導入を検討する企業は大手企業ほど多い傾向がありますが、自社のサービス等から得られる個人データの活用は大企業ほど進んでいるようです。

 業種・資本規模別にAI導入率を見てみると、資本金1億円未満の中小企業でAI導入率が高く、1~10億円の中堅企業で低い傾向があります。資本金10億円以上の企業ではAI導入率が比較的高まります。また、業種別にみてみると、不動産や運輸業等で中小企業のAI導入率が高い傾向も伺えます。

AI市場を支える主要なAI関連企業

AIに関する企業と言えば、アメリカと中国が世界をリードしていると言われています。アメリカではGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftなどの大手企業を筆頭に、1,000社以上のAI関連の会社が存在するというデータもあります。近年では中国もAIの研究や投資を進める大手企業が目立っており、Tencent、Alibaba、Baiduといった大手企業が挙げられます。

一方、日本ではAI関連の企業は300社以上あると思われます。ここではカテゴリ別に分類し、マーケティング、ロボット、コミュニケーションロボット・サービス、エネルギー、業務管理・効率、医療・ヘルスケア・ニュース・報道、セキュリティ・防犯、不動産、金融、チャットボット・自動対話、教育、文章・データ変換・編集、個人・ビジネスマッチング、AI関連の大手企業の15分野に分類を行いました。全体的には設立年数が若いスタートアップ企業が多いですが、AI関連事業を展開する大手企業も多く存在します。具体的にはソニーネットワークコミュニケーションズ、日立ソリューションズ、東芝デジタルソリューションズ、NTTドコモ、シャープ等が挙げられます。

次に企業の規模を基にして分類を行い、日本のAI市場を支える主要な5社をここでは取り上げたいと思います。選定の基準としては上場企業であり、AI関連企業と広く世間に認知されている企業を選定しました。

AI主要企業①:AI inside 株式会社

  • 社名:AI inside 株式会社
  • 設立:2015年8月
  • 本社:東京都渋谷区渋谷3-8-12
  • 従業員:92名(2020年12月)
  • 売上高:15億9,100万円(2020年3月期)
  • 営業利益:4億3,200万円
  • セグメント:カーリング型モデル事業、セリング型モデル事業

AI insideは2015年8月に設立された比較的新しい会社で、AIの画像認識技術を活用して業務を自動化するサービスを展開しています。AI認識技術を活用したクラウド型OCRサービスが主要事業となっており、手書き文字のデジタル文字変換に強みを持っている。2019年12月にはマザーズ市場に上場しています。

現在の主なサービスは手書きの請求書や受発注帳票といったあらゆる書類を、高精度でデジタルデータ化するSaaS型のプロダクト「DX Suite」。AI技術によるOCR 市場では64%のトップシェアを誇っています。

AI主要企業②:株式会社ALBERT

  • 社名:株式会社ALBERT
  • 設立:2005年7月
  • 本社:東京都新宿区北新宿2-21-1新宿フロントタワー
  • 従業員:128名(2019年12月)
  • 売上高:27億300万円(2020年12月期)
  • 営業利益:2億5,000万円(2020年12月期)
  • セグメント:データソリューション事業

ALBERTはデータサイエンス技術を活用した数多くの製品を開発している企業です。特にAIやディープラーニング技術を活用したビッグデータの分析が主体となっていて、自社開発のアルゴリズムに強みを持っています。ALBERTは統計学や金融工学・宇宙物理学等の分野を問わず、高度の研究を行ってきた専門家が揃っていることで競争力を維持しており、AIの分析のとどまらず、画像認識、異常探知、需要予測まで一貫してサービス提供を実施しています。2015年12月にマザーズ市場に上場しました。

AI主要企業③:株式会社PKSHA Technology

  • 社名:株式会社PKSHA Technology
  • 設立:2012年10月
  • 本社:東京都文京区本郷2-35-10本郷瀬川ビル
  • 従業員:連結240名(2020年9月)
  • 売上高:73億9,300万円(2020年9月期)
  • 営業利益:6億3,400万円(2020年9月期)
  • セグメント:Mobility & MaaS事業、Cloud Intelligence事業

PKSHA Technologyは、自然言語処理、画像認識、機械学習・ディープラーニング技術を活用したアルゴリズムソリューション事業を展開する主要なAI関連企業の1つ。深層学習等のAIアルゴリズム機能を開発・提供しており、近年はMaaSや実店舗向けサービスを強化しています。設立は2012年でマザーズ市場への上場は2017年ですが、創業時から間もなくNTTドコモや東京海上、電通、リクルートなどの大企業と連携して事業拡大を進めてきました。自然言語処理技術を用いた汎用型対話エンジン「BEDORE(ベドア)」系ソフトをLINEや日本経済新聞社らに提供。顧客行動の予測・推論エンジン「PREDICO(プレディコ)」系の与信・融資ソフトをクレディセゾンに、領域特化型の画像認識エンジン「HRUS(ホルス)」系ソフトを東京電力やNTTドコモなどにそれぞれ提供しています。

AI主要企業④:HEROZ株式会社

  • 社名:HEROZ株式会社(ヒーローズ)
  • 設立:2009年4月
  • 本社:東京都港区芝5-31-17PMO田町
  • 従業員:46名(2020年4月)
  • 売上高:15億4,400万円(2020年4月期)
  • 営業利益:4億5,900万円(2020年4月期)
  • セグメント:AI関連事業

HEROZは主にAIを用いたゲームを軸にしたBtoCサービスと、「HEROZ Kishin」という機械学習サービスの提供を行うBtoBサービスの2つの事業を展開しています。BtoCサービスは主にゲームアプリで「将棋ウォーズ」等のAI技術を活用したアプリを販売しており、アプリユーザーからの課金収入がメインとなっています。

BtoBサービスでは金融分野、建設、人材、品質管理、ロボット、エンターティメントといった多分野でAIサービスを提供しています。主力の自動監視・異常検知を行う「HEROZ Kishin Monitor」ではAIがリアルタイムに時系列データを解析して未来予測をし、予測に基づいた網羅的な自動監視・異常検知を行います。

AI主要企業⑤:ニューラルポケット株式会社

  • 社名:ニューラルポケット株式会社
  • 設立:2018年1月
  • 本社:東京都千代田区有楽町1-1-2
  • 従業員:32名(2020年5月)
  • 売上高:7億6,200万円(2020年12月期)
  • 営業利益:1億7,000万円(2020年12月期)
  • セグメント:AIエンジニアリング事業

ニューラルポケット株式会社は画像や映像を解析する独自のAI技術開発を行い、スマートシティの開発支援やサイネージ広告を手掛ける企業。2020年8月にマザーズ市場に上場し、設立から、わずか2年半での上場となりました。ニューラルポケットはAIエンジニアリング事業の単一事業ですが、主にスマートシティ関連サービス、サイネージ広告関連サービス、ファッショントレンド解析関連サービスの3つのサービスの展開を行っています。

スマートシティ関連サービスでの注力分野の1つはスマート物流/スマートファクトリーにおける工場のスマート化の推進。これまで暗黙知とされてきた熟練工の経験に基づく動きに関して、AIカメラを用いて可視化し、新人工員の稼働管理に役立つサービスを展開しています。

AI市場の課題と今後の市場動向の予測

日本政府は2019年6月に「AI戦略2019」を公表し、日本国内のAI産業の発展に積極的な方針を掲げています。日本政府の認識としては成熟社会が直面する高齢化、人口減少、インフラの老朽化などの社会課題の解決に手段として、人工知能(AI)をはじめとするテクノロジーの活用を位置付けています。この戦略では、産業・社会の基盤作りとしてAI関連技術を用いた社会実装を掲げており、その具体的な分野として健康・医療・介護、農業、インフラ・防災、地方創生(スマートシティ)が重点分野とされています。

日本国内では少子高齢化に伴う労働人口の減少が大きな課題となっており、AI関連技術は単なる新しい産業や技術というより、社会問題の解決策として今後活用が広がっていくものと考えられます。これに伴い、多くの民間の調査会社が公表しているように、AI市場の市場規模も成長を続けていくと考えられますが、以下のような課題が明らかになっています。

  • AI人材の不足
  • AI関連技術への理解の不足:何ができるかが分からない
  • AIに関する考え方や定義も個人や企業により異なっている

一方で、AI市場と一口に言っても、OCRやチャットボット、需要予測等、AIが提供するソリューションに応じて市場は複数に分類でき、短期的に成長する市場や長期的に成長する市場に分類することができます。また、業種別にみても、不動産や情報通信業等、AI導入率が高い分野とそうではない業種に分類することもできます。とりわけ、運輸、卸売・小売、製造業では今後、成長の余地が大きく残されており、2030年にかけてこれらの産業でのAI導入が普及し、AI市場の成長に大きく貢献すると分析できます。


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